2015-08-11

滑川大滝 FREE SOLO



前回の登攀で大いなる可能性を感じ、再び滑川大滝へ


この巨大な一枚岩の滝の中にたった独り


決して褒められるような事じゃないのは分かっているけど


凄い経験ができた





8月31日追記

2015年8月7日、前川大滝沢・滑川大滝をフリーソロ登攀(一部オンサイト)した。
前の週に、川村直之と組んでハーケン使用による登攀(3P)に成功していたが、その時に、よりクライミングっぽいムーヴを駆使して、流芯近くを登れそうなラインを物色し、ちゃっかりアイディアを膨らませていたのだ。そのラインは、恐らく核心部でも、僕が登れるレベルのムーヴじゃなかろうか?水量やフリクションが安定していて、高さにも慣れている今なら、ひょっとしてオンサイトでも、フリーソロが可能じゃなかろうか?もちろん、もし失敗したら助かる確率はほぼゼロに等しい。そこまでのリスクを背負ってやるべき事なのか? そんな感じで、珍しく3日ほど悩んだが、結局は、川村君だけに再び大滝に挑戦する事を打ち明け、大滝沢に向かった。 ただ、念のための脱出用に8.5ミリx50mロープと、ロープ回収用の細引き、ハーケンx6枚を持った。およそフリーソロらしからぬ軟弱な装備だが仕方ない。これが今の僕の実力なのだ。無謀な事に挑戦するのではなく、かと言って、無駄に諦めるような事はせず、あくまでフィジカルとメンタル両方の実力に見合った装備で、自分の限界を押し上げていくのが、クライミングの王道だと思った。なので、最初はフリーソロを意識せず、あくまでも行けたら、、、行ける所まで頑張ってみようという気持ちで朝5時に出発。着替えているところを誰に見つかって、無責任な事をゴチャゴチャと言われるのが嫌だったので、川沿いの駐車場ではなく、橋の少し手前、道路から外れた広いスペースに駐車した。


滑川温泉の吊り橋をこっそりと渡り、登山道で大滝を目指す。30分ぐらい歩いて大滝前到着。水量は前回と同じだが、風があって少し涼しい。上空に少しだけ雲が掛かってるけど、どうせ午前中勝負なので心配はなさそうな感じ。前回の1P目より少し左側の垂壁、ガバの連続から薄いバンドを経てスラブに乗り込むラインに取りつく。これは前回の計画当初から狙っていたラインだが、川村君の進言を聞き入れて登攀直前に断念したライン。出だしが若干ハングしているので、怖いが、ホールドは硬い。7~8mぐらい登ったところでガバが切れ、そこからちょっとムーヴが悪くなる。左足をうまく突っ張りながら、右足ハイステップで薄いバンドに乗り込んでみるが、先に進むほどあまり良くなさそうだったので、最後までトラバースせず、さっさと上に抜けるイメージに変更。上のスラブはさらにホールドが乏しくなり不安だが、一度経験して、この辺は岩が硬いのを知っているので、あまり落ちる気はしなかった。しかし、明らかに前回のラインよりは悪い。単独じゃなかったら、ここで心折られてたかもしれない。 あまり時間をかけ過ぎるとヤバイと思ったので、マントリングの要領でプッシュしたり手に足をしながら、やや強引に広いバンドに這い上がった。結果的には、薄バンドをトラバースした方が安全だったかもしれないが、出だしでテンションが上がっていたのか、強気にムーヴを使って行けたので気持ち良かった。


前回の1P目の終了点としてハーケンを打った大バンドまで行こうとしたが、途中でふと、前回パートナーが見出しつつ諦めたという、2P目の終了点である「快適テラス」を経由せず、ダイレクトに3P目のスタート地点を目指す新ラインの事を思い出し、動きを止めてオブザベーションしてみた。すると、強く流れる水流の中に、ホールドが続いているのを見つけたので、そこを直登すれば、そのままそのラインまで辿りつけそうだった。むしろトラバースの距離が短いので、コッチが正解のラインのように思えて取り付いてみる。 出だしの傾斜がキツく、まともに滝に打たれるので顔が苦しい。横を向くと耳に水が入る。いきなりちょっと後悔してしまったが、水中ゴーグルのおかげでなんとか耐えられた。スラブに入ってからのトラバースは、ヤバイ時は途中でハーケンを打とうと考えていたが、思ったより水流が強くリスが全く見えない。たとえ打っても、効いているか確認するまでの余裕はなさそうだ。かなりイヤラシイ雰囲気だが、最悪は逆方向にトラバースして前回と同じ「快適テラス」に辿りつこうと、覚悟を決めて冷静に慎重にホールドを探しながら進んだ。乾いていればノーハンドで立てそうなスラブだが、水の抵抗とヌメリのせいで、3点支持でも壁から引き剥がされそうになる。登攀中、最も難しいムーヴもあった。ほんの僅かなミスから行き詰って「やばい・・・このムーヴは落ちるかも」と思う瞬間もあったが、もし落ちれば、スラブを5~6m転がり、あっという間にジャンプ台から投げ出されるようにして60m以上のダイビングだ。冷静さを失わぬよう、淡々と作業を繰り返す。そんな中、心臓の鼓動は静かで、頭の中は、とてもクリアだった。体と意識がまるで別々にあるような、自分が登っている姿を遠くから眺めているような感覚。途中、何度か後ろを振り返ると、自分が実際に登っている事を思い出すのか、手足の冷たさが戻ってくる。こんな集中は、今まで経験した事がなかった。そして、核心を超えると、過去に登ったボルダリングの課題が思い浮かぶようになり、一手一手、このホールドは、ああだのこうだの、まるでいつもと同じく、その辺の岩っころで遊んでいるようで楽しかった。終盤の難所を越えて、安全な場所に辿りついた途端、一気に緊張が解けて足がガタガタ鳴ったので、雄叫びを上げると、とても体が熱くなった。改めて考えると凄いクライミングだ。ここまでのラインは、ソロまたはフリーソロで滝を登るという観点で見れば、ダイレクトにトップアウト地点を目指す非常に素晴らしいラインだったと思うが、ピッチを切るにはどうにも中途半端で、落ち着けるビレイポイントもない。かといって1Pで行くには60mロープでも届かないので、今後もあまり登られる事は無いかもしれない。


水を飲みタバコを吸いながら、しばし休憩。いよいよ最後の区間。ここは前回と同じラインで僕がリードしたのだが、急にフリーソロ完登を意識したのか、足の震えはなかなか収まらず、アレックス・オノルドの気持ちがちょっとだけ解った(笑)
最後の区間は、水流はほとんどないが、非常に岩が脆く、ほとんどの岩が浮いているのを知っている。なので、仮にハーケンを打っても、ほとんど意味がないと思ったし、ソロでは回収が命がけになる。何より、ここまでフリーソロで来れたし、この条件なら、「あとはもうフリーソロ完登以外はあり得ないよね!」そう考えたら、自然に覚悟は決まった。ちなみに、この区間の取り付きには、誰かが打った残置ボルト(ステンレス)があり、敗退しようと思えば、ここから懸垂で降りる事が出来る(ボルトが腐ってなければね)。 しかしながら、この滝に挑んでここまで来るクライマーは、そんな他人の打ったボルトなんて、これっぽっちも期待していないはずだと思いますが。
さて、前回と同じく最大限慎重にホールドを確かめながら一歩づつ登り詰め、トップアウトした時は、ブワッと全身に鳥肌が立った。素晴らしい!100mを超えるフリーソロを成功させた、自分にではなく、この壮大なスケールにして、一般クライマーでも、フリーソロが可能という、滑川大滝の素晴らしさに心から感動した。この滝は、日本中探しても滅多にない、極めて貴重な滝だと思う。自分より実力のあるクライマーならば、きっともっと凄いラインをフリーソロするんじゃないか?その可能性が、まだ大いに残されているというものまた素晴らしい!そのまましばらく佇んでも良かったが、もう十分に満足していると感じたので、あまり大休止はせず高巻き道を登り、少し藪を漕いで登山道へ出た。途中のビューポイントでちょっと休憩を入れつつ車に戻った。


最後に、個人的な想いを言わせてもらえば、ずっと沢登りをやってきて、単独でロープを使う煩わしさを、「鍛えて解決」する為に、ボルダリングに転向し、今まで続けてきて、本当に良かったです。
グレードについては全くわかりません。そもそも基準が分からんし、使えるホールドもラインそのものも、水量次第で全く変わると思います。ほとんど勘でしかないけど、例えばボルダリングで表記するならば、おそらく核心のムーヴ強度が4級くらいでしょう。自分の最高グレードよりは、かなり下だが、メンタル的なものや、壁の規模、ラインのオリジナリティを含めると、3段の課題を登るより、ずっと大きな成果でありました。
ルート名は「銀鱗躍動」とします。



2 件のコメント:

  1. 凄いというか緊張して読ませていただきました。

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    1. トラ山様、長文駄文を読んでいただきありがとうございました。大滝沢は本当に素晴らしい。また訪れようと思います。

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